2026年5月6日水曜日

第211回社会科学習会(4月)の報告

  第211回社会科学習会は、4月25日(土)に新宿区立牛込第一中学校を会場として行われました。今回は、中央大学総合政策学部教授の川崎一泰先生に「人生100年時代の社会保障を考える」 という主題でご講演をいただきました。以下、その要旨を報告いたします。


1. アリとキリギリス

 『アリとキリギリス』では、夏の間遊んでいたキリギリスと冬に備えて働いていたアリが冬を迎え、キリギリスが困りアリが得をするという話である。老子は「授人以魚 不如授人以魚(魚を与えるのではなく釣り方を教えよ)」という言葉を残している。私たちには、困っている人にどのように手を差し伸べるのか、ということを考えなくてはならない。経済学の格言に、"There is no such things as a free lunch"(フリー・ランチは存在しない)がある。ただで提供されるサービスは長続きしない意味であり、収支バランスをとらないと成立しないことや将来の収入のことを含め、金融という仕組みが出来上がるという。


2.時代変化と高齢者

 昭和35年に連載されていた『サザエさん』では、波平は55歳の定年間際のお父さんとして描かれている。当時、平均寿命は男性が65歳で、10年から15年の老後を社会保障に賄われながら過ごしていた。近年、平均寿命は15年から20年伸び、定年も55歳から65歳にまで伸びた。今後も平均寿命は伸びてゆくと予想される。現在、多くの人間は90歳近くまで生きており、更には高齢者と呼ばれる年齢になっても元気な者が多い。

 日本国憲法第25条から、日本の社会保障は国が行う仕組みとなっている。国家予算の3分の1を占めている国の社会保障関係費では、年金・医療・介護が8割を占めている。社会保障給付は保険料と公費で担っている一方で、民間でも取り扱われている。保険料の事業主支出が保険料の半分以上を占めているため、近年は経団連などが縮小に関する提言を行っている。


3.保険の基本的な考え方

 国民は自らの死亡時期や病気になる時期を事前に予測することができない。社会保険の目的は、特定の国民が不足の事態に遭遇した時の経済的損失を社会的に供出しあい分散しあうことである。民間による保険では不足の事態の遭遇率が高い者は加入することが難しい。国民皆保険によってリスクを供出しあい確率を安定させる。この点は日本の社会保障の最大の特徴であり、世界でも評価されている。そのため、民間の保険でとられる手法である各世代で保険の収支均衡を図る積立方式ではなく、様々な世代で収支均衡を図る付加方式を保険財政では採用している。必要としている世代へすぐに保険の適応ができるといったどの世代も社会保障を受けられる民主的な利点がある一方で人口構成に左右される点がある。

 税金は公益のために負担し再分配が行われる。保険料は国民の不足の事態に対する対応のためにあり、必ず見返りがあるものだ。国家財政が厳しくなり、社会保険料が様々な政策の財源として扱われる。保険料を政策に利用し、リスクに対する給付が行えず制度が歪んでしまう。


4.社会の変化と社会保障

 昭和時代に多く見られた働き方や家族の在り方は、現在のものとは異なっている。しかし、社会保障制度をはじめとした制度は昭和のままアップデートされていない。日本では「負担は自分以外なら誰でもよく、自分に給付してほしい」という考え方が根底にあり、所得制限を生み出し分断につながる。制度によってゼロ負担の家庭を設け、低所得者や高所得家庭の3号被保険者(専業主婦)も社会保障を受けることができるしくみによりで公平性が失われていると考えられる。困っている人がわからない状況の中で平等に支援を行い、働いたほうが得であるとするしくみにするべきである。

 保険でカバーするべきものについても再考する必要がある。保険料を下げるために高額医療制度といった単にお金が多くかかるものに目を付けて削減しようとすることは、短絡的である。保険では基本的に滅多に起こらないリスクに対応することが安心につながるのではないか。


5.社会保障の課題

 社会保障には「哲学」がない。昭和時代の発想のままである一方で、その場しのぎのパッチワーク的な政策を行っている。再分配の方法が高所得者と低所得者を優遇するものであり上位中間層に皺寄せがきている。働き損を解消するために、年金受給者も働ける環境整備や税と保険の区別による明確な役割分担をしくみとして整えるべきだ。そして、政治とは独立した長期的な視点で社会保障について議論する独立機関が必要である。


6.質疑応答

・中学生に社会保障を教えると、高齢者に厳しい目を向ける傾向がある。差別意識を持たないようにするには、どうしたらよいのか。

→言葉と本質があるため、高齢者への厳しい見方は短絡的なものになっている。長生きのリスクについて考えることが必要である。大人同士の議論に至る部分はあるが、中学生の段階ではコツコツ準備をしてきた者が損をする社会を形成してはいけないと考えさせられるとよいのではないか。実際に大学生は、議論の末に税で負担することは悪くないこと、広く負担しなければならないという考えを持つ。

・氷河期世代の人間が100歳まで生きる社会で人間らしい生活ができるのか。

→収束する保険は子どもが0にならない限りない。ただし、一定の水準を保ち続けることもできない。最低限の価値の変化や配分の変化が見られるだろう。

・社会保障教育が求められる中で、中学生に伝えるべきことは。

→何が大切かということを考えることを重視してほしい。価値観を植え付けるのではなく、「哲学」として大切なものについてひとりひとりが考えるようにさせたい。

・地方自治では外国人労働者の在り方が問われている。社会保障における今後の日本の方向性や考え方はどのようになっているのか。

→外国人については考え方が様々である。社会保障制度はみんなが困った時の保証であるため対象は広く浅くになっている。外国人労働者も対象であり、負担をしている。ただし、本国にいる家族が来日して社会保障を受けるといった悪用されるケースも散見されるため社会保障の在り方を見直す必要が出てきている。短絡的に排除の方向に動くことはできない、重要で解決が難しい課題である。


0 件のコメント:

コメントを投稿

5月(第212回)社会科学習会は巡検を行います

  5月 の社会科学習会は,玉川上水巡検を行います。「東京の尾根と谷」を歩く巡検の企画は2016年に始まり,10回目を数えています。 去年は荒天のため残念ながら中止となっていた企画を再度計画いたしました。新緑の季節に,現地を歩かないと分からないことを一緒に学びたいと思います。ぜひ...